HRマーケティングとは、採用~入社後~退職後の一連の候補者や社員との関係性作りにおいて、マーケティングで使われる思考やフレームワークを適応させた考え方です。
マーケティングの考え方をHR領域で取り入れるべきという動きは数年前から海外でも提唱されています。
Why (and How) HR Needs to Act More Like Marketing
HR領域でマーケティング思考が必要な理由
ではなぜHR領域においてマーケティング思考が必要なのでしょうか?
1. 採用市場の変化に適応するため
まず最初に挙げられるのが、採用市場の変化でしょう。
◎買い手市場から売り手市場に
例えば2019年の新卒のデータを見てみると、大卒の求人倍率は1.88倍。7年連続で上昇しています。求人総数は増えている一方で、学生の就職希望者数は横ばいという状況です。

出典: 株式会社リクルート リクルートワークス研究所 第35回 ワークス大卒求人倍率調査
◎働き方改革が広まる
政府は2016年に「働き方推進室」を設置し、少子高齢化や働き方ニーズの多様化などを背景とした働き方改革を推進しています。子育てや介護と仕事の両立、リモートワークやパラレルワークなど、働き方に対するニーズはこの働き方改革をきっかけに一層多様化しています。
◎終身雇用制度が機能せず
高度経済成長期、日本の景気がよかった頃に打ち出された「終身雇用制度」。その企業への入社と引き換えに定年までの雇用を約束するものです。ただし雇用契約書などに記載があるわけではなく、バブル崩壊後にはリストラなども行われており、この制度はもはや機能していないと言えます。
一方雇用者側にとってもそれぞれのライフスタイルに応じたキャリア形成の多様化が進んでおり、終身雇用を求める声は少なくなっています。
終身雇用制度のもとにおいては採用担当のゴールは「入社」であることがほとんど。この考え方が崩壊している現在は、入社後の活躍やエンゲージメント、退職後の友好な関係性作りなど、人事に求められている幅も広がっています。
このような採用市場の変化から、これまでとは違ったアプローチが求められています。
2. 他社に惑わされず施策を行うため
このような背景から、採用手法や福利厚生なども多種多様になっています。特にSNSの普及や求人媒体の増加により、企業や人事担当者が自ら情報発信をすることが多くなってきました。
Wantedlyなどのプラットフォームを活用した採用ブログの運用や採用向けオウンドメディアの立ち上げなども増えています。ここでよくあるのが「他社がやっているから」「流行っているから」といった理由で施策に手をつけてしまうケース。特に企業からの情報発信は継続的な取り組みが必要な上に、短期的な成果は見込めない施策です。「本当に今の自社にとって必要なのか?」を吟味せずあれもこれもと手をつけてしまうと、結果的に成果にも繋がりにくいのです。
このように、他社の取り組みや業界の流れに惑わされず自社に必要な施策を行うために必要なのが、マーケティング思考なのです。
マーケティングでは、施策立案をする際にはまず課題の整理から始めます。「流行りだから」と、課題がなかったり優先度が低い部分に施策を打つことはほとんどありません(予算やリソースが限られているため)。またそもそも課題がない部分には施策を打つ必要はないのです。
「選考通過率が低い」「入社後のミスマッチがあり早期退職が多い」「評価に納得してもらえていない」など、それぞれの課題によって施策が異なるのは明白です。
課題を理解した上で他社の成功事例を参考にするのと、そうでないのとでは見える成果が違うのはイメージできますよね。
このようにマーケティングの施策立案のプロセスを取り入れると、他社に流されることなく自社にとって本当に必要な施策を取捨選択できるようになるのです。
3. マーケティングにはフレームワークが多いため
具体的な施策を考える際にも、マーケティングの考え方は有効です。
ファネル分析、ペルソナ、カスタマージャーニー、3C分析、NPSなど…マーケティングには多くのフレームワークが存在しています。これらのフレームワークは、HRの領域でもそのまま応用できるケースが多いのです。
4. 現代に求められているHRのあり方はマーケティングそのもの
最近のHR領域で求められている考え方とは、「ユーザー視点にたった考え方」です。
これまでは求人広告でも自社のメッセージを一方的に発信しても見てもらえる時代でしたが、今は上記に挙げた背景もあり、選考に来てくれる候補者や社員、退職するメンバーなどそれぞれの視点にたってメッセージングや打ち出し方を考えていく必要があります。
これは、ユーザーニーズを把握して、市場を創る価値のある商品を開発して、それを必要な人に届けるという一連のマーケティング活動と全く同じなのです。
HRマーケティングに取り組む際のポイント
最後に、HRマーケティングに取り組む際に気をつけるべきポイントをまとめます。
1. まずは現状の整理から
色々なフレームワークや施策を試したくなることもあるかもしれないですが、まずは課題の整理から始めるのが良いでしょう。
もちろん目の前には候補者や社員がいるわけなので、「やりながら進める」というのもあるとは思いますが、あれこれと手をつけて忙殺される前に、しっかりとどこに課題があり、今は何に注力をすべきなのかが見えてくると、自分の仕事を上司にも説明しやすくなりますし、他社や上司に振り回されることなく施策を行うことができます。
2. ファーストステップはユーザー視点に立つこと
「まずは何からすればいいのか?」と疑問を持たれる方も多いと思います。
ファーストステップとして取り組みやすいのは、まずはユーザー視点に立つこと。求人要項を書くとき、採用ブログを書くとき、面接で候補者の方と話すとき、日程調整をするとき、どんな状況においてもまずは相手の視点にたつことで、これまで自社都合で一方通行だった考え方がガラッと変わるでしょう。
その他のHRマーケティング手法や事例については本メディアで随時更新していきます。
3. フレームワークは手段のひとつ。考え方を理解した上で応用させる
HR領域にマーケティング思考を取り入れるべき理由として「フレームワークをそのまま応用できる」とお伝えしました。
ただし気をつけなければならないのは、フレームワークはあくまでも手段のひとつであること。フレームワークを使うことを目的としてしまうのは、本末転倒です。
「ペルソナを作ったけど結局使われずに放置されている…」と言ったことはマーケティング領域でもよくあることです。そもそも何故そのフレームワークを使うのかを理解した上で、必要なときに必要なフレームワークを使えるようにしましょう。
以上、この記事では「HRマーケティングとは?」についてまとめました。HR Marketing Labでは、具体的な事例やノウハウをたくさん更新していきますので、ぜひ参考にしてください。
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